鴨川もるもー

日々の日記、雑記ブログ

ライ麦畑でつかまえて J.D.サリンジャー 訳:野崎考

物心ついた時には、本の存在は知っていた。中学校入学直後ぐらいに、一度読もうとチャレンジしたが、退屈で早々にリタイヤした覚えがある。当時の自分にはこの物語の良さなんて、理解できなかったのだろう。

月日は巡り、ライ麦畑やサリンジャーのキーワードは定期的に目の前にやってきた。が、あえて避けて通ってきたのかもしれない。

社会人になって、ようやく興味が湧いてきた。
きっかけは攻殻機動隊のDVD。笑い男のやつ。深く理解するには、ライ麦畑の通読が必須だと思った。
それに、ジョン・レノンを射殺した犯人もライ麦畑を愛読していたと。その他にも、レーガン大統領に発砲した犯人もライ麦畑を愛読していたそうだ。
そんなにも心が惹かれる、または心の拠り所となる話なのか。社会にも影響を与えるような文章。とても気になる。

購入して、通読。

読んでみて、自分もとても心が惹かれた。
自分が読んだのは、野崎孝訳の白水Uブックスだった。訳者によっても大分印象が変わるだろうなぁ。

まずはタイトル。
ライ麦畑でつかまえて
通読するまでは、つかまえてという文字が、女の子が「私をつかまえてみて」と呼びかけるようなニュアンスだと思っていた。実際は違ったようだ。
いや、もしかしたらそんなニュアンスも含まれているかもしれないが、ホールデンがフィービーに話した言葉は違う。
「広いライ麦畑の捕まえ役。そういったものに僕はなりたいんだ」と。
ライ麦畑の捕手というタイトルをつけた訳本もあるが、そっちの方が誤解は少ないように思う。でもライ麦畑でつかまえてというタイトルも嫌いではない。
まぁ、キャッチャー・イン・ザ・ライが一番しっくりくるかな。

その他にも、つやけしって表現。文章表現としては、初めて聞いた。
「何を言うんだ!つやけしなことはよせよ」
原文はspoil itらしい。細かな意味は分かりませんが。日常会話ではつやけしなんて表現使いませんもんね。でもどこかで使ってみたい。誰も理解してくれないでしょうが。

ともかく、英語には全く興味は無いが、機会があるならば原文での通読をしてみたい。本来の文章のニュアンスを感じ取り、深くこの物語を理解してみたい。
英語を勉強する一つの原動力というか、目的にはなり得るか。


それに、タクシーに乗る度、公園の池が凍った時アヒルはどこに行くか知らないかな?って聞いて回ってみたい。
その意味を理解してくれるようなユーモアのある運転手に、もし出会えたなら人生は素晴らしいと思わせてくれる。
実際はそんな運転手なんていない。ホールデンが受けた仕打ちと同じようになるのがオチ。

攻殻機動隊のやつは、アリーのミットの話と、もう一つは西部に出発する計画の際の「僕は唖(おし)でつんぼの人間のふりをしようと考えたんだ」という文章。
今度は攻殻機動隊をもう一度見ないといけないのか!永遠の繰り返し。

生きていくってことは、毎日誰かしらと関係を持たないと生活ができないと改めて考えさせられる。
それが嫌なら唖でつんぼの人間のふりをして西部で暮らすか、エンパイア・ステート・ビルの屋上から飛び降りる以外ない。
世の中、決して一人では生きて行けないんだな。

ラストのフィービーとのくだりも好きだ。
社会やシステムに馴染めなくて、街を出る決心をした際、最後に心を繋ぎ止めてくれたのは妹のフィービー。
サリンジャーは、子供ってのは本当に純真無垢で愛おしい存在だと感じさせてくれる。
どんな作品でも孤独な人間が、他人と心を通わすシーンが好き。


ホールデンは自分の考えを持っている。自分の頭で考える。直情的で、よく失敗もする。誰にも理解されず、孤独。
でも人間的魅力に溢れている。
そんな姿に自分は心惹かれてしまう。
思春期に読んでいれば、強く影響されてしまっていただろうなぁ。今なら距離を置いて読んでいられるが。一体どんな人格を形成する手助けをしただろうか。

もしこれから読まれる方がいるのであれば、訳本もいくつが出ているようなので、文体や表現が一番しっくりくる訳者の本を選ぶと良いと思う。