鴨川もるもー

日々の日記、雑記ブログ

ばぁさんの寸借詐欺未遂

仕事で地方を代表する大きな駅を利用した。
その日は夜に業界の集まりがあって、その後電車で移動して地方出張という流れ。余分な荷物を持って会合に参加する訳にはいかないので、コインロッカーに出張の荷物を預けていた。
コインロッカーの場所は、駅の正面から少し外れた場所。ATMとかが並んでいるような、少し陰気な所。
電車の時間も迫っていたので、急いでコインロッカーに向かって歩いていた。前には40歳後半ぐらいの、ビジネスマンが歩いていた。いかにも出張という感じの大きなスーツケースを持ったサラリーマン。多分、通路奥の本屋に向かっていたのかな。

歩いていると、前のサラリーマンが急に端から出てきた小綺麗な服を来たばぁさんに声を掛けられていた。ばぁさんの口からは何か小さな声は出ていたが、なんと言っているのかは聞き取れなかった。道でも訪ねてるのかと思ったぐらいで気にも止めなかった。

とにかく自分は急いでいる。ようやく荷物を預けたコインロッカーの場所に辿り着き、荷物を取り出して振り返ると、思わず二度見してしまった。
困った顔をしたサラリーマンが財布からお札を出して渡していたのだ。
何があったのか理解できなかった。気にはなったが、とにかく急いでいる。他人に構っている暇は無い。自分はその場を通り過ぎた。

電車の中で、先程の状況を思い返してみた。
①ばぁさんが本当に困っていたケース
 本当に財布を無くして困っていた等。
②ばぁさんが悪意を持ってお金をせびっていたケース
 これはダメなパターン。騙す方も悪いが、騙される方も悪いのか。
③サラリーマンが悪かったケース
 サラリーマンが悪事をしていて、ばぁさんがお金を貰う正当な理由があったとか。もしくは恐喝。万引見てたから口止め料くれとか。うーん、これも考えにくいなぁ。

とにかく、確認のしようがない。お蔵入りのミステリー。このことは忘れよう。


出張から帰って来た。今度はスーツケースを転がして、駅から出てきた。急遽、仕事の本を買う必要性があったので、コインロッカー奥の本屋に向かった。
何と、あの小綺麗なばぁさんがまだいた。
気にせず本屋の方に進むと、こっちに来て、蚊の鳴くような声ですみません、すみませんと何度か声を掛けてきた。本当に困ったような声だ。
無視するのも何なので、振り返ると、財布を無くしたので駅までのお金を貸してくれませんかと言ってきた。

なるほどなぁ。

まず、声を掛ける相手を吟味している。
いかにも地方から出張で来たような、スーツケースを持ったサラリーマンを狙っている。先日、優先的に声をかけられなかったのは、スーツケースを手に持っていなかったから。地方から来た人なら、変な噂が立っていたとしてもその事実を知らないカモだ。二度と会うことは無いだろうし、多少の金も持っているだろう。

次に、ばぁさん自身。
小綺麗な格好をしている。まさかホームレスには見えない。生活に困った人にも見えない。蚊の鳴くような声で声を掛けられると、本当に困った状況のように見える。

全ては計算ずく。いや、本当に上手い。

しかし、自分は先日もばぁさんを見ていた。
お金は渡せませんときっぱり断った。それでも泣きついて来たので、先日も同じ所でサラリーマンにお金をせびっていたのを見ていたことを言ってやった。
すると何も言わなくなったので、そのまま自分は立ち去った。

後で思い返すと、無性にばぁさんに腹が立ってきた。警察に言って捕まえて貰おうか。
しかし、悪意を持ってやっていたことを立証ができない。お金を渡すのも、あくまでも渡す側の善意の行為。人の善意につけ込んでいるのが余計に腹立たしい。
それに貰ったお金は税金も取られない。丸儲け。いったい毎日いくら稼いでいたのか。本当に腹が立つ。

これだけ頭が回る人なら、何か社会の役に立ったのに。全く才能を無駄にしている。

これが、ばぁさんの寸借詐欺が未遂に終わった話。